ヴィヴ編 Stage1 レイクサイド・ループ
1. スタイル
前編: ヴィヴは新たに入手した車にガンナーを同乗させてスタイルドリフトを行う。
後編: ヴィヴはガンナーのロートル気取りをなんとかしたい。
だから数年かかったのか! / かなりレアものだよね?
原文
Gunner: So you finally found one... Hah, that took you a few years!
Gunner: It's supposed to be a bit of a handful, right? Does it live up to its reputation?
現行訳
ガンナー: あれをついに見つけたんだね...ああ、だから数年かかったのか!
ガンナー: かなりレアものだよね?運転はどんな感じなの?
試訳
ガンナー: ついに見つけたのか…ははっ、苦節数年だな!
ガンナー: ちょっとクセのある車種だったよね?評判通りかい?
「ついに見つけた」車を、直後の文で「だから数年かかった」と表現していて、意味が通っていません。
それと他のシナリオでも2回やっている "handful" の誤訳。少ない数を示すrare寄りの類義語の用法ではなく、「手に負えない」を意味するスラングです。
やる気を削ぐするつもりはなかった
原文
Gunner: Well, that was exhilarating...
Gunner: Remind me never to go Style Drifting with you again.
Viv: Sorry, didn't mean to put you off...
現行訳
ガンナー: まあ、爽快だったけど...
ガンナー: もう二度とスタイルドリフトはしない。マジで。
ヴィヴ: ごめんね、やる気を削ぐするつもりはなかった...
試訳
ガンナー: いやあ、ゾクゾクするほど爽快だったよ…
ガンナー: 今後は君の助手席でスタイルドリフトはしないって、肝に銘じておく。
ヴィヴ: ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど…
助手席に乗ってきただけの人をドリフトでシェイクする行動において、「やる気」が何を指すのか曖昧です。
というか、「削ぐする」はシンプルに誤字ですね。
2. 決闘
前編: ヴィヴはガンナーの走行ラインのチェックを申し出る。
後編: ヴィヴはガンナーの走りを評する。
だから!ちょっと...昔みたいな時間がいいの?
原文
Viv: How about we race and I can check out your lines for you?
Gunner: Not sure there is much you can do for an old dog like me at this point.
Viv: Oh! C'mon... For old times' sake?
Viv: It's the least I can do after everything you've done for me over the years.
Gunner: Alright then, I give in!
現行訳
ヴィヴ: 一緒にレースして、あなたのラインテクをチェックするのは?
ガンナー: 僕みたいな年寄りにそこまでする必要ないよ。
ヴィヴ: だから!ちょっと...昔みたいな時間がいいの?
ヴィヴ: あなたは何年も私を見てくれた、そのお礼よ。
ガンナー: 分かったよ、じゃあ行こう!
試訳
ヴィヴ: だったら、レースであなたのライン取りを確かめたいんだけど、どうかな?
ガンナー: 僕みたいなポンコツに、君がそんなにすることはないだろう。今更だよ。
ヴィヴ: ねえ! お願い...長い付き合いでしょう?
ヴィヴ: 何年も助けてくれたんだから、私にできることで返させてよ。
ガンナー: 分かった。仕方ないね...!
"For old times' sake" の sake には利益や目的の意味があり、直訳では「良かった昔のために」、イディオムとしては「昔のよしみ」です。
現行訳の「昔みたいな時間がいいの?(昔に浸っているのか?)」という叱責のかたちでも日本語として読み下せなくはないですが、とはいえこの文脈上は「長い付き合いでしょう?(昔のよしみで頼むよ)」という懇願のほうが適切と考えました。
3. タイムアタック
前編: ガンナーはヴィヴに自分の練習をしろとたしなめる。
後編: ヴィヴはタイムアタックを通じてガンナーに速さを見せる。
他の人を見るのは練習に代えられないしね
原文
Gunner: You know I've seen you helping out the others all day.
Gunner: I hope you've been getting in your own practice as well.
Viv: Truth be told, I'm bad at that... I like helping though, and I get a lot out of observing.
Gunner: Watching everyone else is no substitute for practice and you know it.
Viv: Okay, okay... What do I need to do to prove to you I'm not falling behind on practice?
Viv: What's the track record again?
Gunner: I believe it's 47 seconds.
Viv: Is that all? I'm sure we can fix that...
現行訳
ガンナー: 君はずっと他の人を教えてるし。
ガンナー: 君自身の練習もたくさんしてるといいな。
ヴィヴ: 正直言って、自分の練習は下手なんだけど、教えるのは好きだし、見て得られるものもある。
ガンナー: 他の人を見るのは練習に代えられないしね。
ヴィヴ: まぁ、そうだけど...それじゃあ、どうやって練習に遅れを取っていないって示せばいいの?
ヴィヴ: コース記録は何だっけ?
ガンナー: 47秒だと思う。
ヴィヴ: そんなもの?わたしらなら破れそうだけど...
試訳
ガンナー: ヴィヴ、君は一日中他のみんなに助言してたりするよな。
ガンナー: 君自身の練習も、同じくらいやれてるといいんだが。
ヴィヴ: 正直、練習は苦手で...だけど人の走りを助けるのは好きだし、それで得られることも沢山あるよ。
ガンナー: 他人を観察するのは練習の代わりにならないって、分かってるだろ。
ヴィヴ: 待って待って...それじゃあ、私のやり方が練習に劣っていないって証明できればいいよね?
ヴィヴ: ここのコースレコードは何秒だっけ?
ガンナー: 確か、47秒。
ヴィヴ: そんなもの? 私やみんなでも更新できそうだね...
強調部以外を含むコンテクストの問題だと思ったので、長めに引用しました。
映画字幕のような考え方でワンタップあたり、あるいは英語の字数あたりに制限を設けていたのかもしれませんが(とはいえ最大字数の制限ではないのは明らかだ)、結果として文脈は複数回、寸断されています。
解説
このやり取りのキーポイントは以下の行で、これ自体は現行訳も大きくは外していません。
原文: Viv: Okay, okay... What do I need to do to prove to you I'm not falling behind on practice?
現行訳: そうだけど...それじゃあ、どうやって練習に遅れを取っていないって示せばいいの?
試訳: 待って待って...それじゃあ、私のやり方が練習に劣っていないって証明できればいいよね?
(余談: 外していないとはいえ、個人的には「どうやって○○すればいい?」という反語・修辞疑問文の中でも、これに関しては普通に質問に見えてしまうので、試訳のように質問の内容を少しずらしています)
この行によって、タイムアタックの目的は「ヴィヴの人助け活動が、練習に相当する以上の効果を持っていることを証明する」ことがわかります。
それに辿り着くまでの流れが文脈であり、キャラクターがどういう調子でものを言っているかを推量する手掛かりになるはずです。
タイムアタックの目的
ヴィヴの人助け活動が、練習に相当する以上の効果を持っていることを証明する
ガンナー、ヴィヴの人助け活動を見ていた
事実の提示
事実の提示
ガンナー、ヴィヴに練習をしてほしい
希望、要望
揶揄、批難
ヴィヴ、言い訳
練習は下手 + 教えるのは好き + 得るものもある
練習は苦手... 助けるのは好き + 得るものも沢山ある
ガンナー、他人を見ることと練習の違いを強調
ヴィヴへの同意(のような語尾)
ヴィヴへの反論
ヴィヴ、練習に遅れを取っていないと主張
ガンナーへの反論、タイムアタックへ
ガンナーへの反論、タイムアタックへ
タイムラインにするとこうなります。特にガンナーの台詞の解釈によってキャラクターの感情が繋がらなくなっているのではないでしょうか。
最初から辿っていきましょう。まずはこの2行から。
原文:
Gunner: You know I've seen you helping out the others all day.
Gunner: I hope you've been getting in your own practice as well.
現行訳:
ガンナー: 君はずっと他の人を教えてるし。
ガンナー: 君自身の練習もたくさんしてるといいな。
試訳:
ガンナー: ヴィヴ、君は一日中他のみんなに助言してたりするよな。
ガンナー: 君自身の練習も、同じくらいやれてるといいんだが。
先に提示した「ヴィヴは、他の人を教えることが練習以上に効果があると思っている」という結果から逆算すれば、反対の立場であるところのガンナーとしては、ここは希望や要望ではなく、批難のニュアンスを含む必要があります。
次の1行。
原文:
Viv: Truth be told, I'm bad at that... I like helping though, and I get a lot out of observing.
現行訳:
ヴィヴ: 正直言って、自分の練習は下手なんだけど、教えるのは好きだし、見て得られるものもある。
試訳:
ヴィヴ: 正直、練習は苦手で...だけど人の走りを助けるのは好きだし、それで得られることも沢山あるよ。
現行訳では、ガンナーのゆるい要望に対するヴィヴのゆるい自己表明に見えてしまい、話の行方がぼやけています。
この行はガンナーの批難に対するヴィヴの言い訳であり、原文でもそれを反映するために「苦手の告白」そして「人助けのメリットの強調」という2文にはっきりと分かれています。
だから、"bad" は「下手」ではなく「苦手」がベターだし、"I'm bad at that..." のピリオド3つをきちんと訳出すべきでしょう。
強調した一文に移ります。
原文:
Gunner: Watching everyone else is no substitute for practice and you know it.
Viv: Okay, okay... What do I need to do to prove to you I'm not falling behind on practice?
現行訳:
ガンナー: 他の人を見るのは練習に代えられないしね。
ヴィヴ: まぁ、そうだけど...それじゃあ、どうやって練習に遅れを取っていないって示せばいいの?
試訳:
ガンナー: 他人を観察するのは練習の代わりにならないって、分かってるだろ。
ヴィヴ: 待って待って...それじゃあ、私のやり方が練習に劣っていないって証明できればいいよね?
結局、ヴィヴに反発されるような語調に見えないのが問題だろうと思います。「他の人を見るのは練習に代えられない」という表現自体あまり直感的でない気もしますが、文末の "and you know it." の訳が語尾の「~ないしね。」では軽すぎます。
立場の対立が表現されていないので、結局こいつは何が言いたいんだ? ということになってしまうわけです。
誰にとっても簡単上手く行く事じゃないって分かってるからね
原文
Viv: I just need to focus on setting an example, on helping and supporting the others.
Gunner: I admire your spirit, but promise me you'll make time for yourself as well?
Viv: I will... I know it's not going to be easy, for any of us.
現行訳
ヴィヴ: 自分がお手本になって、他の人に練習を教えることに集中しないとな。
ガンナー: 君の精神には感心するけど、自分の時間も取らないとだよ?
ヴィヴ: そうするよ...誰にとっても簡単上手く行く事じゃないって分かってるからね。
試訳
ヴィヴ: 私もみんなに手本を示して、上達の手助けをしていかなくちゃ。
ガンナー: 立派な心がけだが、頼むからそのくらい熱心に、自分のための時間も作ってくれよ?
ヴィヴ: そのつもりだけど...その両立が難しいのは、みんなに言えることでしょ。
ここは正直、「簡単に」の脱字はともかく現行訳のほうが比較的真っ当な原文に近いと思うのですが、好みで解釈を入れています。入れない場合は「そのつもりだけど...それは簡単にできることじゃないと思うよ、誰にとっても。」のような直訳にしたい。
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