エイダ編 Stage1 レイクサイド・ループ
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前編: エイダはサマーグランプリへの出場を決意する。ヴィヴの勧めによってコーリーのゴーストを借りる。
後編: イバはゴーストをトレースしたエイダの走りを褒める。エイダはドリフトのコツに気付く。
Ada: If you drift and turn in the same direction you can carry more speed, I barely have to lift off!
エイダ: ドリフトして同じ方向に曲がれば、速度がたくさん出るよ。ほとんどリフトオフしなくていいし!
エイダ: ドリフトとステアリングを同じ方向に使うと、スピードを出したままにできるんだ。ほとんどアクセルを緩める必要がないの!
のっけから試訳も一見奇妙な台詞になっていますが、本作のドリフトスティック・システムを踏まえてあげたほうが親切であろうと考えます。
本作には左スティックのステアリング(この台詞のturn)に加えて、右スティックのドリフト(drift)という、もう一つの方向舵があります。これらを同じ方向(same direction)に使うことで旋回角が強まり、よりスピードが出せる……という意味合いを備えた台詞であろうということです。
実際にこのコースでステアリングとドリフトを上手く使えばアクセルベタ踏み、ノーブレーキで回れるという事実も無視できません。Inertial Driftの、特にエイダのストーリーにはこのようなゲームシステムや運転に関する話が頻出します。まあ大概ステージクリア後に出てくるのであまり助けにならないのですが。
また、リフトオフという訳語についても思うところがあり、この箇所以外ではほとんどスロットル(throttle)とセットで使われているのだから、足をスロットルから離す≒減速する意味と見ていいでしょう。訳出としては「アクセルを緩める」「ペダルから足を離す」「減速する」あたりが妥当かと思います。
(lift offが「車が浮く」とか「コースアウトする」とかの意味ではないかという指摘を受けたことがありますが、タイヤが浮くゲームでもなければグラベルに突っ込むコースでもないです。ここはガードレールと壁しかない)
前編: イバはコーリーとのレースを勧める。恐れをなすエイダに、ヴィヴが同車のゴーストを作ってくれる。
後編: エイダはコーリーとのレースに自信を持つ。
Ibba: You should try racing Corey? That's much more exciting than just following a Ghost around.
Ada: Not sure I'm ready for that... Isn't there someone else's Ghost I can study?
Ibba: You shouldn't worry so much... Practice is good though, I can't fault you for that.
イバ: コーリーでレースしてみたら?ただゴーストを追いかけるよりもはるかにエキサイティングだよ。
エイダ: 準備できているかどうか...ほかに練習になるゴーストはいないの?
イバ: そんなに心配いらないと思うけどね...練習は良いけど、別にいいんじゃない。
イバ: コーリーとレースしてみたら?ただゴーストを追いかけるより、ずっとエキサイティングだよ。
エイダ: 私なんかで勝負になるか分かんないよ…ほかに練習できるゴーストはいないの?
イバ: 君は慎重すぎると思うけど…まあ、練習は良いことだ。それを責めはしないさ。
分からなくないですか?「練習はいいけど、別にいいんじゃない。」結局なにがいいんだ。
上記のイバの台詞の直後。
Viv:I guess I could do a quick lap in your car, for you to follow... If that would help?
ヴィヴ: あなたの車で最速の走り見せてあげられると思うけど...どう?
ヴィヴ: じゃあ、私があなたの車ですぐに走ってくるから、それで練習するのはどう?
ふつう速い周回はfast lap、最速の周回はfastest lapではないでしょうか。レース用語でいうクイックラップには確かにスローラップと対比してタイムアタックのための周回の意味がありますが(F1予選など)、この文脈で少なくとも「最速」という訳出は適切でないように思います。「あなたの車でタイムを出してくる」「あなたの車でクイックラップしてくる」とかは有りだと思うけど。
なお、後編でヴィヴは "It's not my best lap ever." と作成したゴーストを評し、そもそも「最速の走り」ではないことを自ら補強しています(現行訳: 「今までで最高のラップではないんだよね」。こっちは「ベストラップじゃないんだよ」とかでよくない?)。
前編: エイダはコーリーにレースを挑む。
後編: コーリーはエイダの走りを評する。ヴィヴはエイダにドライバーのテクニックだけでなくそのスタイルについて考えるよう促す。
Corey: Wow, you definitely didn't learn all of that just from my Ghost!
Ada: I picked up a few tricks from Viv as well...
コーリー: ワォ、そこは僕のゴーストからは何も学んでないのか!
エイダ: ヴィヴからもコツ知ったの...
コーリー: ワォ、これは……僕のゴーストで学んだだけじゃないな!
エイダ: うん、ヴィヴから覚えたテクもあるんだ…
「何も学んでない」は字面がひどくない?
"didn't learn all of that just from my Ghost" は「僕のゴーストからの学習だけが全てではない」ではないでしょうか。
Ada: Thanks, Viv. Today was good... I learnt a lot...
Ada: And there will be other drivers I can learn from at the other tracks too.
Viv: I hope you're also thinking about why people drive the way they do as well?
Ada: Not really... As long as I can follow them, pick up their tricks, then does it really matter?
Viv: You may find that following someone isn't always so easy.
エイダ: ありがとう、ヴィヴ。今日は良かった...たくさん学んだし...
エイダ: 他のコースでも参考になるドライバーがいるだろうし。
ヴィヴ: あなたもそう感じてるといいけど、なぜみんな同じドライブをしたがるの?
エイダ: そうでもない...追い付つきながらコツを拾うのって、本当に大事なの?
ヴィヴ: 誰かに追い付いていくのは大変だと思う。
エイダ: ヴィヴ、ありがとう。今日はすごく良かった…たくさん学べたよ…
エイダ: きっと他のコースにも、参考になるドライバーがいるはずだよね。
ヴィヴ: そうなったら、皆がなぜそのようにドライブしているかも、考えてみてほしいね。
エイダ: そうかな…?私がみんなの後を追って、テクを吸収する、それで十分じゃない?
ヴィヴ: 後を追うのが、いつも簡単ってわけじゃないわ。いずれ分かるかもね。
分からなくないですか? 急に疑問形で「みんなが同じドライブをしている」と言い出すヴィヴ。テクをラーニングしておいて「本当に大事なの?」と言い出すエイダ。
あまり英語の深掘りはできないんですが、よりにもよってエイダのストーリーのテーマに関わる最も重要な場面に誤訳と日本語の壊滅が同時に来ているので、素人なりに説明します。
I hope you're also thinking about why people drive the way they do as well?
(現行訳)あなたもそう感じてるといいけど、なぜみんな同じドライブをしたがるの?
(試訳)そうなったら、皆がなぜそのようにドライブしているかも、考えてみてほしいね。
まずヴィヴは、「なぜみんな同じドライブをしたがるの?」とは言っていません。むしろ「皆が(それぞれ異なるやり方で)ドライブしているのは何故か」をエイダに考えさせようとしている。
この文を解体すると
"I hope": 私は望んでいる
"you're also thinking about": あなたが~についても考えていることを
"why people drive the way they do": なぜ人々が彼らのやり方で運転する
"as well": 同様に(ここでは、エイダが他のコースで他人のテクを学ぶことと同様に、の意味)
になります。
問題は "why people drive the way they do" の部分です。
"why people drive the way they do" の部分を切り出し、エイダに対する疑問文として扱っていること
"the way they do" を「彼らそれぞれの方法」ではなく「彼らの同じような方法」と解釈したこと
この2点によって、日本語的な不自然さが生まれ、また意味が反転したのだろうと推測できます。
直後のエイダにいきましょう。
Not really... As long as I can follow them, pick up their tricks, then does it really matter?
(現行訳)そうでもない...追い付つきながらコツを拾うのって、本当に大事なの?
(試訳)そうかな…?私がみんなの後を追って、テクを吸収する、それで十分じゃない?
「追い付つき」の誤字はともかく、これも意味が反転するタイプの誤訳です。エイダは自分が他人をフォローをして見稽古することを大事に思っているはずが、それに疑問を持つような台詞に変わってしまっています。
前の行と同じように文を解体してみます。
"Not really...": そうでもない
"As long as I can follow them, pick up their tricks,": 私が彼らを追い、彼らの技を学べれば
then does it really matter?: ならば、それ(it)は本当にマターなのか?
先頭の不自然な「そうでもない」から大概ではありますが、もっぱら問題は末尾の「本当に大事なの?」になってくると思います。
「大事(マター)」が何の話なのかを、文脈に沿って考えてみましょう。
この第1ステージで、エイダは他のドライバーをお手本に走り方を学ぶというメソッドを身につけました。いま引用したクリア後の会話中でも、他のコースへの遠征と学習に意欲を燃やしています。一方で友人のヴィヴは、ドライバーのテクに限らずその背景を考えるよう勧めますが、エイダはアドバイスにあまり納得していません。
そのような流れにおいて、"then does it really matter?" の「それ(it)」は、2つの意味が考えられます(私には……。ChatGPTに聞いたら常に1番だと言っていた)。
ドライバーが「なぜ」各自の技を持っているのか考えることを、エイダは重要だと思っていない
エイダがドライバーの技をラーニングすることを、エイダは優れたアイデアだと思っている
ただ "it" がどちらを指しているか自体は、それこそ問題ではありません。この2つの状態は矛盾しないからです。
考えるべきことは、特に現行訳が2番の心情を反映していない事実です。「追い付つきながらコツを拾うのって、本当に大事なの?」はその点において、読者の理解を著しく削いでいます。
したがって試訳では、どちらの場合でも通用する「そうかな…?私がみんなの後を追って、テクを吸収する、それで十分じゃない?」としました。
"it really matter?" の向き先を明確に分けることも、訳文しだいでは可能でしょう。私が考えた別解は以下です。
パターン1: ドライバーが「なぜ」各自の技を持っているのか考えることを、エイダは重要だと思っていない
「そうかな…?私がみんなの後を追って、テクを吸収すればよくない?"なぜ" なんて、本当に重要なの?」
パターン2: エイダがドライバーの技をラーニングすることを、エイダは重要だと思っている
「そうかな…?私がみんなの後を追って、テクを吸収する、それだけで何の問題があるの?」