イバ編 Stage4 サンセットシー・サーキット
1. ゴーストバトル
前編: イバはコースの難しさをジェイに指南される。
後編: イバはエイダに不安を吐露する(2レース目前編と同じ)。
「沈黙の聖戦」
原文
Jay: I'm impressed to find you here, in the belly of the beast so to speak.
Ibba: How do you mean? I'm surprised there aren't more people here doing the same honestly.
現行訳
ジェイ: この「沈黙の聖戦」で会えるなんて、感激だよ。
イバ: それってどういうこと?同じことをしてる人があんまりいないなんて、正直びっくり。
試訳
ジェイ: お前さんがいるとは、驚いたよ。虎の穴に飛び込んできたようなもんじゃないか。
イバ: どういう意味だい?こっちは正直、同じ目的の人があまり居なくて面食らってるんだけど。
"in the belly of the beast" は直訳で獣の腹の中、イディオムとして「修羅場」とか「ピンチの只中」のような意味があります。
私の知る限り、これを「沈黙の聖戦」と訳しているのはスティーヴン・セガール映画の配給担当者だけです。
念のため背景を説明しておくと、スティーヴン・セガールの主演映画は『沈黙の戦艦』『沈黙の要塞』以後、非常に多くの作品が原題や連続性を無視して『沈黙シリーズ』として日本で公開されています。『沈黙の聖戦』もそのひとつで、これは和英翻訳的には必然のない、セガールというコンテクストに依存した翻訳です。
加山雄三が出ていたことがあるからといって、漫画『ブラック・ジャックによろしく』が『加山雄三のブラック・ジャックによろしく』になったりしないでしょう。
おかしな学習をした機械翻訳やウェブ辞書の検索結果をチェック不足で入れてしまったにせよ、セガール映画で遊んでみたかったにせよ、出来の悪さ以前にプロ意識を疑う姿勢であり、ある意味本作ワーストの翻訳ではないかと思います。翻訳を改善したという名目のNintendo Switch版にこれが残っているのも最悪です。
思ったよりスムーズに進んでいなかったなんて
原文
Jay: The drivers here put an emphasis on consistency... Endurance Events that punish any mistakes.
Jay: It's a place that weeds out casual racers from those more serious about their craft.
Ibba: The track does seem intense... It might be more than I can handle...
Ibba: Things haven't been going as smoothly as I'd hoped.
現行訳
ジェイ: ここのドライバーは集中力を重視する。耐久イベントはミスが命取りだからな。
ジェイ: 自分の技術に磨きをかけるレースガチ勢しかいないし。お遊びレーサーはお断りってやつさ。
イバ: かなり難しそうなコースだな...僕の実力で大丈夫だろうか...
イバ: 思ったよりスムーズに進んでいなかったなんて。
試訳
ジェイ: ここのドライバーは安定性を重視する…どんなミスでも、耐久イベントには命取りだからな。
ジェイ: そんな真剣に鍛えるレーサーとカジュアルなレーサーを、ふるいにかける場所なのさ。
イバ: ハードコアなコースみたいだ…僕の手には負えないかもしれない…
イバ: 相変わらず、期待したほどスムーズには行かないな。
"Things haven't been going" で「進んでいない状態が今も続いている」と訳せる現在完了進行形です。
「これまでの道程はスムーズではなかったし、このコースにおいても同様であろう」という彼の感想として現行訳は適切ではなく、なにより日本語としての引っ掛かりが大きいように思います。
少し慎重すぎと思ったけど大丈夫だった? / このコースでずっと頑張ってきた
原文
Ada: Are you alright, Ibba? You look stressed.
Ibba: It's this track. I've put in so much work, and I really thought this would be my year...
Ibba: But it's just been harder than ever.
現行訳
エイダ: イバ、少し慎重すぎと思ったけど大丈夫だった?
イバ: このコースでずっと頑張ってきたから、もう完璧だろうと思ってたけど...
試訳
エイダ: 大丈夫、イバ?ストレス溜めてるみたい。
イバ: このコースがね…今までずっと努力してきたから、今年こそ僕の年だなんて思ってたけど…
"You look stressed." ストレスが掛かっているように見える、と "It's this track. I've put in so much work" 今まで沢山頑張ってきた、の解釈がちょっと違うように思います。
"You look stressed" については、抑圧されることと慎重な走りは若干異なります。
"It's this track. I've put in so much work," これはイバはこの旅でサンセットシー・サーキットを走り始めてそう時間は経っていないと考えられるのと、"this would my year" という年単位の比喩が出てくるので、"It's this track." という短文でエイダの心配に対する応答と考えるほうが自然であろうと考えました。
2. タイムアタック
前編: イバはエイダに不安を吐露する。
後編: イバは不安を残したままジェイと耐久イベントに臨む(3レース目前編と同じ)。
急カーブで簡単にミスる
原文
Jay: It's almost time for the Endurance Event... How goes practice?
Ibba: I can put in a good lap, but it's easy to make small mistakes, especially through the hairpins...
現行訳
Jay: もうすぐ耐久イベントだぞ...練習はどうだ?
Ibba: 良いラップはできるけど、特に急カーブで簡単にミスるんだよね...
試訳
Ada: 間もなく耐久イベントだな…練習はどうだ?
Ibba: 良いラップは刻めてるけど、特にヘアピンで小さなミスが出やすいな…
さすがに "hairpins" は「ヘアピン」か「ヘアピンカーブ」でいいのでは?
3. 耐久性
前編: イバはエイダに不安を吐露する。
後編: イバは不安を残したままジェイと耐久イベントに臨む(3レース目前編と同じ)。
一番じゃなかったの?
原文
Ibba: I didn't see when you finished, did you make the gold?
Jay: Not this time unfortunately, but I'm satisfied...
現行訳
イバ: キミのゴールが見えなかったけど、一番じゃなかったの?
ジェイ: 今回はそうじゃなかったけど、満足だ...
試訳
イバ: ジェイのゴールしたところは見てなかったな。ゴールド・タイムは取れた?
ジェイ: いや、残念ながら取れなかった。だが満足してるよ…
このあたりはレース結果で会話が分岐するパートです。これは勝利(ゴールドメダル取得)のほう。
作中の耐久イベントは順位制ではなく、規定タイムを生き延びる古典的なアーケードスタイルのレースゲームのようなモードです。イバもジェイにまあまあ気軽に "did you make the gold?" と聞いているわけで、イベントをクリアできたかどうかくらいの意味合いしかありません。「一番」は誤解を招くかと思います。
ちょうど見逃したけど、同じ気がする
原文
Ibba: I couldn't quite hold it together in the end... But I gave it everything I had, so I'm satisfied.
Ibba: Did you make the gold?
Jay: I just missed out on it, but I feel the same...
現行訳
イバ: 最後が耐えきれなかったけど...全力を尽くしたし、満足だよ。
イバ: 一番じゃなかったの?
ジェイ: ちょうど見逃したけど、同じ気がする...
試訳
イバ: 踏ん張り切れなかったけど…全力を出せたし、満足してるよ。
イバ: ジェイはゴールド・タイム、取れたかい?
ジェイ: オレも惜しかった。だがまあ、あんたと同じ気持ちさ…
これは分岐で負け(シルバー以下)のほう。
現行訳の日本語がまたふわふわしていますが、原文に当たると、ジェイの "missed out" は「見逃した」というよりは「取り逃した」と見てよさそうですし、"I feel the same" はその前のイバの満足にかかっていると思ってよいでしょう。
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