エドワード編 Stage5 キリノ山

1. スタイル

  • 前編: エドワードは地元のソロレーサー・セスと出会う。

  • 後編: エドワードはセスとのスタイルランから感じた速さに驚く。

特になし。

2. ゴーストバトル

  • 前編: エドワードはエイダと、セスの対策を練る。

  • 後編: エドワードはイバの謝罪を受ける。

試しとかしなくてもコーナーめっちゃ速く走ってるし!

原文

Edward: Ada, have you seen Seth drive? He carries so much speed through corners without even trying!

現行訳

エドワード: エイダ、セスのドライブ見た?試しとかしなくてもコーナーめっちゃ速く走ってるし!

試訳

エドワード: 見たかよエイダ、セスのドライブを!攻めてる走りでもねえのに、あんなにスピードが乗ったままコーナーを抜けてっちまう!

試しってなんだ?

スタイル・ラン(スタイルドリフト)の走りなので、軽く流しながら「映え」の走りをしているセスに驚愕するエドワード、という話なので、訳語としてはそのまま「トライ」とか、「チャレンジ」とか、何かあるだろう……。

速度を上げすぎると、それがあだになって

原文

Ibba: If you carry too much speed here, you'll end up in the dirt and lose loads of time.

現行訳

イバ: ここで速度を上げすぎると、それがあだになって、かえって時間がかかる。

試訳

イバ: スピードを出しすぎると、結局はダートにはまって、タイムロスが大きくなってしまうからね。

レースゲームでのテクニカルなアドバイスにおいて "in the dirt" を訳出せず意訳に留める理由がありません。キリノ山はダートのあるコースです。

3. レース

  • 前編: エドワードはセスに挑む。

  • 後編: エドワードはサマーグランプリへの参加を考える。

頑張れよ、エドワード

原文

Seth: You push hard, Edward. I guess, racing is about more than just knowing the track.

Seth: I've never been interested in racing before but I can see the attraction...

Seth: You need to be able to handle the pressure of having someone on your tail. You bested me in that department.

Edward: You felt under pressure from me? I was just enjoying the Race.

Seth: I guess sometimes we are the ones putting pressure on ourselves. I'll bear that in mind for next time...

Seth: Maybe I'll tag along to this Grand Prix I've been hearing so much about and we'll have a chance for a rematch.

現行訳

セス: 頑張れよ、エドワード。レースは、コースを知るだけじゃないしな。

セス: レースに興味なかったけど、魅力なら分かるし...

セス: 後ろに誰かいるっていうプレッシャーに勝たないとだった。そこらへんは、俺は負けてたよ。

エドワード: オレからプレシャーを?ただレースを楽しんでいただけなのに。

セス: 時々俺らは自分自身にプレッシャーをかけるのがいいかもしれないってね。次こそは俺が勝つ...

セス: たぶん、ずっと聞いてきたグランプリを追っていくだろうし、再戦のチャンスはあると思うぜ。

試訳

セス: 果敢なプッシュだったな、エドワード。コースを知るだけがレースじゃないって思わされたよ。

セス: 今まで興味なかったけど、レースにはこういう魅力があるんだな…

セス: 後ろから追われるプレッシャーを乗りこなす必要があるんだ。あなたはその点で俺より強かった。

エドワード: オレからプレッシャーを感じてたって?こっちはただレースを楽しんでただけだぜ。

セス: ならプレッシャーっていうのは、時に俺たちが自分自身にかけてしまってるのかもな。次まで心に留めておくよ。

セス: みんなの言ってるグランプリってやつに俺も行けば、再戦のチャンスがあるかもしれない。

最終レース直後、エンディングの会話だというのに、分からなくないですか? 何もかもが……。

エドワード編全体としては意味を完全に破壊する会話はあまり無く、間違っていてもどうにか繋がらなくもなかったのですが、ここだけは文脈どころか文章がズタズタです。

負けたセスがエドワードに「頑張れよ」と上から励ましてきたと思ったら、レースに興味ないとか、急なプレッシャー哲学の話を始めて、次こそ俺が勝つと無闇な闘争心を発揮している……。支離滅裂で話が頭に入ってきません。

機械頼りでひとつずつ検討していきましょう。

(原文)Seth: You push hard, Edward. I guess, racing is about more than just knowing the track.

(現行訳)セス: 頑張れよ、エドワード。レースは、コースを知るだけじゃないしな。

(試訳提案)セス: 果敢なプッシュだったな、エドワード。コースを知るだけがレースじゃないって思わされたよ。

ここでの "push hard" は命令形の「頑張れ」ではなく、「激しく攻める」です。そして "push" 攻める、とは集中してペースを上げるといった意味のレース用語です。

レース直前にエイダが "if you can stick close to him he might make a mistake." 「ぴったりくっつけばミスを誘えるかも」と言っていたり、この同じ文中で "I guess, racing is about more than just knowing the track" 「思うにレースは、コースを知るだけじゃない」と言っている(ここでのI guessは「えー」「あー」のような空虚なものでなく「思った」「気付いた」として拾ったほうが自然)ことからも、"push hard" がゲームメイクに関わることで、かつセスが今まで実感していなかったレースの要素(魅力)であることは明らかでしょう。

(原文)Seth: I've never been interested in racing before but I can see the attraction...

(現行訳)セス: レースに興味なかったけど、魅力なら分かるし...

(試訳提案)セス: 今まで興味なかったけど、レースにはこういう魅力があるんだな…

そして次の行、"but I can see the attraction..." の魅力(attraction)が何に掛かるかといえば、うまく訳出されていない今まで(I've never been~before)興味のなかったレースの魅力なのですから、先にセスの言った「レースは、コースを知るだけじゃない」に絡めた言い方をしてやらなければ不自然になります。

後段の "I can see" に now が入っていないとはいえ、"I've never been~before but" のあとに来るので、いま魅力を分かり始めたような言い回しにしてやるほうが、文脈には合った言い方にできるのではないでしょうか。

(原文)Seth: You need to be able to handle the pressure of having someone on your tail. You bested me in that department.

(現行訳)セス: 後ろに誰かいるっていうプレッシャーに勝たないとだった。そこらへんは、俺は負けてたよ。

(試訳提案)セス: 後ろから追われるプレッシャーを乗りこなせる必要があるんだ。あなたはその点で俺より強かった。

この行単体では先の2行ほど大幅な改訳になっていませんが、その2行が一度も文脈に乗っていないので、必然的にここも読んでいて頭に入ってきません。

些細な改訳とはいえ、現行の訳出の際に時制が過去形に変わってしまったことは問題だと感じているのでその説明をします。

私はこの "You" から始まるのに相手の話をしていないいわゆる英語特有のやつがすごく苦手なんですが、現行訳はここを「勝たないとだった(勝たないといけなかった)」としているせいで直前のレースだけに対する反省のように見えてしまいます。ここはもう少し一般論的に、フォーカスの広い話をしている必要があります。

なぜならこの文は、前の2行で語られていた「レースは、コースを知るだけじゃない」こと、「興味なかった」レースの魅力のこと、セスの気づいたタイムアタックとレースの違いを繰り返し、別の角度と範囲から説明してやる流れのうちのひとつであるからです。

その繰り返し説明されたレースの難しさと魅力をエドワードが理解しているから強い……とセスが称賛するのが、後段の "You bested me in that department." であり、ここに繋がってセスの台詞の結論となるわけです。この部分で「そこらへん、俺は負けてたよ」と範囲を限定するのも文脈に沿っていないように感じたので、試訳では「その点」としました。

(原文)Seth: I guess sometimes we are the ones putting pressure on ourselves. I'll bear that in mind for next time...

(現行訳)セス: 時々俺らは自分自身にプレッシャーをかけるのがいいかもしれないってね。次こそは俺が勝つ...

(試訳提案)セス: ならプレッシャーっていうのは、時に俺たちが自分自身にかけてしまってるのかもな。次まで心に留めておくよ。

言ってない!あまりに言ってなくて驚いたのでフレーズを細かく分けます。

  • I guess sometimes we are the ones putting pressure on ourselves.

    • I guess 思うに、かもしれない

    • sometimes 時々

    • we are the ones 我々、我々こそ

    • putting pressure プレッシャーをかける

    • on ourselves 我々自身に

  • I'll bear that in mind for next time...

    • I'll bear that in mind 心に留めておく(イディオム)

    • for next time 次までに、次のため

やはり「プレッシャーをかけるのがいい」とも「次こそは俺が勝つ」とも言っていません。

私も単語の個々の意味だけではなく文脈を読むべきだと再三主張しているのでこの直前の話をしますが、これはソロ・レーサーだったセスがレース特有のプレッシャーの駆け引きに気付いた上で、エドワードから「オレがプレッシャーを発してたつもりはないよ」と指摘されての返しです。

もしも仮にこの訳が「有り」だとすれば、プレッシャーをあえて自分自身にかけるのがコツだと開眼し、更には溢れる闘争心が芽生えたとするには2~3クリックは短すぎるというか、唐突に過ぎるアクロバティックな意訳であろうと思います。

この大胆な意訳の結果として、エドワードからの返しを一応成立させ、次への文脈を作ることには(先の2~3行に比べれば)成功していますが、それはしかし捏造というものでしょう。セスというエドワード編のラスボス級キャラクターの人物造形を大きく改変していると言わざるを得ません。

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