イバ編 Stage3 スノーマウンテン・スプリント
1. 決闘
前編: イバはルーカスに煽られてコースに出る。
後編: イバはルーカスのオフロードマシンに完敗し、ズルだとわめく。
いいホイールだ
原文
Lucas: Nice wheels... I've heard about the HPE Dragon, but I've never seen one in person.
Ibba: It's a beast... In terms of power, nothing comes close.
現行訳
ルーカス: いいホイールだ... HPEドラゴンについて聞いたことはあるが、実物は見たことない。
イバ: パワーじゃ獣だよ、誰も追いつけないさ。
試訳
ルーカス: いい車だねえ…HPE ドラゴンか。話に聞いたことはあるが、実物を見るのは初めてだ。
イバ: こいつは猛獣だよ…パワーに関しちゃ、並ぶものはない。
「ホイール」は車の慣用表現ですが、日本語にそのまま持ってくると車輪と思われる可能性が高いです。
いい訳語が思いつかないので試訳では一旦「車」にしています。
初めての山 / 全力をかけてられても
原文
Lucas: Impressive... Not sure it would be my first choice here on the mountain though.
Lucas: I bet even with all that power, my Coda Gecko RX would have no problem passing you on the downhill.
現行訳
ルーカス: 素晴らしい!まぁ、それが初めての山で通用するかは不明だがな。
ルーカス: 全力をかけてられても、私のコーダ・ゲッコウ RXは下り坂で君を難なく追い越すだろう。
試訳
ルーカス: 素晴らしいね…まあその車が、この山での最適解かは分からんが。
ルーカス: そいつのフルパワーが相手でも、私のコーダ ゲッコーRXならば、ダウンヒルで君を軽々とパスするに違いない。
"my first choice here on the mountain" は「山における最初の選択、第一希望」といったもので、「初めての山」にする余地は無いように見えます。
「全力をかけてられても」が日本語として不自然なのは言うまでもないでしょう。
公園の散歩
原文
Ibba: I've got this. He drives a Coda Gecko RX! It'll be a walk in the park.
現行訳
イバ: 大丈夫だって。あの人はコーダ・ゲッコウ RXをドライブしてんだよ!公園の散歩だって。
試訳
イバ: 大丈夫、相手はコーダ ゲッコーRXだぞ!朝飯前だよ。
私も知らなかったのですが、"walk in the park" という、朝飯前とか赤子の手をひねるとかのイディオムがあるんですね。そのままやっても近いニュアンスにはなっていると思いますが、文化的には日本語の近い慣用句を当ててやるほうがより自然であろうと思います。
半分もいなかったじゃん
原文
Ibba: What was that man? You cheated! You weren't even on the road half of the time!
Lucas: Woah there, don't be a sore loser...
Lucas: No one said anything about having to stay on the road. Besides, it was the same rules for both of us.
現行訳
イバ: あいつ何なんだよ?騙したな!半分もいなかったじゃん!
ルーカス: おいおい、負けるのは悲しいなァ...
ルーカス: 誰も道路にいろなどと言っていないだろ。それに、共通のルールじゃないか。
試訳
イバ: 何だったんだ、あいつは!ズルだよ!道路の上にいた時間なんか半分もないだろ!
ルーカス: やれやれ、負け惜しみは良くないぞ…
ルーカス: 道路に留まらなきゃいけないなんて、誰も言ってはいない。しかも我々は同じルールで走っていたんだ。
主語の省略が文脈をちぎりかけている場面。イバの視界に半分も居なかったのか、道路の上に半分も居なかったのかを2クリック先を読まないと分からない(場合によっては読んでも分からない)のは原文に対するスポイルであろうと思います。
逐語的な直訳が偉いわけではないし、現行訳にも字数を少なく、読み味を確保するなどといったテーマがもしかしたらあるのかもしれませんが、とはいえ、やりすぎではないでしょうか。
2. ゴーストバトル
前編: イバはエドワードからのスタイルドリフトの誘いを蹴り、ルーカスのゴーストを研究する。
後編: イバはルーカスに作戦負けしていたことを悟る。
長距離なら準備する方が
原文
Ibba: Looks like you were right, I shouldn't have rushed in.
Viv: I know patience isn't your thing, but a bit of preparation can save you time in the long run.
現行訳
イバ: 確かに君の言う通りだけど、無鉄砲なことしないほうがよかったよ。
ヴィヴ: 我慢が得意じゃないのは分かってるけど、長距離なら準備する方が効率的よ。
試訳
イバ: 君の言う通りだったみたいだ。慎重になるべきだった。
ヴィヴ: 我慢が苦手なのは知ってるけど、少しの準備が、長い目で見れば近道にもなるのよ。
"in the long run" は「長期的、長い目で見れば」を意味する慣用表現で、あまりそのまま訳すことはないようです。
雪を難なく切り裂いて
原文
Ibba: I know, I know...
Ibba: But how am I supposed to beat that guy? He cuts through the snow like it's nothing! My car just sinks in.
現行訳
イバ: はいはい...
イバ: でも、どうやってあいつを倒せばいいわけ?雪を難なく切り裂いてんだよ!僕のはただ沈むだけ。
試訳
イバ: 分かってる、分かってるよ…
イバ: でも、どうやってあいつを倒せばいいわけ?雪を何もないみたいにショートカットしてる相手だぞ!僕は沈んでくだけだ。
ひとつ上から直接の続き。
"cut through the snow" をして「雪を切り裂く」は素直にカッコいいのでこれでもいい気はしますが、レースゲームなので、コーナーを無視して雪だらけのグラベルをすっ飛んでいく様子としては「ショートカット」のほうが適切なようにも思います。
サイドコースなんて何に役に立つのかな?
原文
Viv: Edward, you and Samira have been out Style Drifting, right?
Edward: Yeah! You should try it, Ibba. It's like a whole different world, it might give you some ideas!
Ibba: Shouldn't you be practicing instead of goofing off, Edward?
Viv: ...
Ibba: I'm trying to go faster here, Viv. I don't see how getting extra sideways is going to help me do that?
現行訳
ヴィヴ: エドワード、あなたとサミラはスタイルドリフトに参加したのよね?
エドワード: ああ!試すべきだよ、イバ。ほんっと別世界だ!何か新しいアイデアが浮かぶかもな!
イバ: エドワード、ふざけてる場合じゃなくて練習すべきじゃない?
ヴィヴ: ...
イバ: もっと速く走りたいんだけど、ヴィヴ。サイドコースなんて何に役に立つのかな?
試訳
ヴィヴ: エドワードは、ここでサミラとスタイルドリフトしてるのよね?
エドワード: ああ!お前もやってみろよイバ、まるで別世界だ。新しい気付きがあるかもな!
イバ: 練習をサボってる場合じゃないだろ、エドワード?
ヴィヴ: …
イバ: ヴィヴ、僕は速くなりたいんだ。オーバーな横滑りが役に立つとは思えないけど?
「サイドコースなんて何に役に立つのかな?」とありますが、 "sideways" は横向きのこと、とりわけモータースポーツ用語としてはいわゆるドリフト走行を指します。「サイドコース」という不明瞭な造語(寄り道・脇道の意味?)よりは適切でしょう。
あるいは寄り道・脇道の意味を重ねていくなら、「ズルズルと横滑りで遠回りするのが、役に立つとは思えないけど?」みたいな訳し方も思い付きはしますが、試訳は直訳に寄せました。
そこで切ればいいんだ
原文
Ibba: I think I've got it! Start of the track has more open sections, where he can cut corners...
Ibba: But towards the bottom, the track gets tighter and more twisty, which favours my car's higher acceleration.
Viv: So, he knew he could beat you in the first half...
Viv: And that's why he chose a Duel. He didn't want to risk you catching up at the end.
Ibba: Exactly!
Ibba: It's going to be tough, but I think I should be able to beat him in a straight Race.
現行訳
イバ: コツがつかめたかも!コースの序盤に開けた所があるんだけど、そこで切ればいいんだ
イバ: でも、下に下ると、コースはもっと狭く曲がりくねるし、車はもっと早くなる。
ヴィヴ: だから、最初の半分で勝てるって知ってたのね...
ヴィヴ: だから決闘を選んだのよ。最後に追いついてくるリスクを冒さないために。
イバ: なるほどね!
イバ: 難しそうだけど、ストレート勝負なら、あいつに勝てるはず。
試訳
イバ: 分かってきたぞ!コースの序盤の開けたセクション、奴はあそこでショートカットできる…
イバ: だが、コースを下るとタイトな急旋回に差しかかる。そこでは加速で上回る僕の車のほうが強いんだ。
ヴィヴ: つまり彼は、前半の有利を知っていたのね…
ヴィヴ: だからデュエル・ルールを選んだのよ。ゴール前でイバに追いつかれるリスクを冒したくなかった。
イバ: ああ、そうに違いない!
イバ: 厳しい戦いだけど、一本勝負のレース・ルールなら僕にも勝てるはずだ。
分からなくないですか? 特に前半分などは代名詞 "He" "You" を訳したら電流の流れるトラップにでもかかっていたのか、ほとんどの主語が省略されていて何を話しているのか全く理解できない。他にも「コーナーをカット」のようなレース用語を訳していない、Duel, Raceといったキャピタライズを無視するなど満遍なく読解を阻害していきます。
誰が何を「そこで切ればいい」のか
「もっと早くなる」車の所有者は誰か
「最初の半分で勝てるって知ってた」のは誰か
「ストレート勝負」とは何か
これらの疑問に対して、現行訳は答えを提示していないか、非常に困難な推測を求めていると言わざるを得ません。
3. レース
前編: イバはルーカスに再戦を挑む。
後編: イバはエイダと合流し、次のコースへ向かう。
特になし。上述の決闘・ゴーストバトルに比べればまだ読みやすい方です。
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