エドワード編 Stage1 レイクサイド・ループ
1. タイムアタック
前編: エドワードは走り込み練習にもサマーグランプリにも乗り気でないが、ヴィヴに励まされコースに出る。
後編: エドワードは予想外のコースの楽しさをヴィヴに語る。
まだ全然よく分かんねえ [表現]
原文
Viv: Ready to have some fun? Your car's all set up and the track is clear. You should go out and get some practice laps in.
Edward: Pfft, practice?
Edward: This is already starting to sound too much like hard work.
Edward: I'm still not sure about this whole thing.
Viv: C'mon, it'll be fun! You've been looking for an opportunity to get some track time, right?
現行訳
ヴィヴ: 楽しむ準備はできてる?車のセットアップ・コースも準備OK。練習にも臨める。
エドワード: フー、練習?
エドワード: もう大げさな感じがしてきた。
エドワード: まだ全然よく分かんねえ。
ヴィヴ: いいじゃん、楽しいって!タイムを出したいんでしょ?
試訳
ヴィヴ: 楽しむ準備はできてる? 車のセットアップはできてて、コースも空いてる。だったら練習で走ってきなよ。
エドワード: ハッ、練習ね?
エドワード: さっそく面倒な響きだな。仕事みてえだ。
エドワード: オレは、この旅自体にまだピンと来てねえんだよ。
ヴィヴ: いいでしょ、きっと楽しいって! コースで走れるチャンスを待ってたんじゃないの?
先にプロローグで「ロードトリップに渋々参加することになったエドワード」という前提条件が説明されているので、"whole thing" はイベント(ロードトリップ)全体、あるいはそれに含まれる練習部分への話であろうと思います。
現行の「まだ全然よく分かんねえ」はそれ(thing)を確定させずに済んでいますが、言葉の輪郭をぼかし過ぎではないでしょうか。
できるだけ自由にやらせてあげるから [表現]
原文
Edward: Who cares about the Grand Prix?! I don't want serious stuff like that to ruin our fun.
Edward: I've barely had a chance to drive my car yet... I just want to mess about and enjoy it.
Viv: Okay. Well, messing around sounds fine to me...
Edward: Let's get you out there and see what you've got! I'll give you some tips.
Viv: And I promise I'll keep the "serious stuff" to a minimum.
現行訳
エドワード: グランプリとかどうでもいいだろ?!マジメにやっても楽しくねえよ。
エドワード: まだ自分の車を運転したばっかで...自由に楽しみたいだけだよ。
ヴィヴ: そう。まあ、ブラつくのは別にいいんだけど...
ヴィヴ: そこに行って、あなたの実力を見せよう!アドバイスはするから。
ヴィヴ: それに、できるだけ自由にやらせてあげるから
試訳
エドワード: 誰がグランプリなんか気にするって? あんなバカ真面目なことに楽しみを奪われたくないね。
エドワード: 今までは、自分の車でほとんどドライブできてなかったからな...ただ好き勝手に、遊びたいだけなんだよ。
ヴィヴ: OK。好き勝手に遊ぶ、結構なことじゃない...
ヴィヴ: だからこそ、コースで実力を見せてよ! コツは私が教えてあげるから。
ヴィヴ: 「バカ真面目」なノリはできるだけ控えるって、約束する。
これも現行訳だけ見れば主旨を大きく損なっているわけではありませんが、特にヴィヴが "I promise" とまで言い、引用符付きでわざわざ「バカ真面目(serious stuff)」を控えると宣言したニュアンスは強調したい。
すごい勢いで壁が迫ってきたからめちゃ激しくドリフトしたときタイヤの滑る音が凄くて、コントロールするのがやっとだった [表現]
原文
Edward: Did you see me out there? That was so cool!
Edward: That wall was coming up fast, but I drifted hard, the tires were squealing, and I was barely holding on... But I made it! I kicked up a big pile of leaves and powered right out of the corner! It was epic.
Viv: I saw! You did great. It seems like you're getting the hang of the car already.
現行訳
エドワード: どうだった?超かっこよかっただろ!
エドワード: すごい勢いで壁が迫ってきたからめちゃ激しくドリフトしたときタイヤの滑る音が凄くて、コントロールするのがやっとだった...でも何とかできたよ!デカい葉っぱの山をまき散らしながらコーナーをギリで曲がった!
ヴィヴ: もちろん!凄かったね。もう運転に慣れてるみたい。
試訳
エドワード: 見たかよ、コースでのオレを? クールだったろ!
エドワード: すげえ勢いで壁が迫って、そんな中ですげえドリフトして、タイヤがすげえ鳴って、なんとかこらえて...でも、やれたぜ! 葉っぱの山を吹っ飛ばしてコーナーを全開で飛び出してくの、見えてたかよ? 最高だ!
ヴィヴ: もちろん見てた! すごかったよ。もう運転に慣れたみたいね。
エドワードの興奮によって台詞が荒れているのか、それとも書かれた文章が稚拙なのかを区別できない状態に感じます。地味に文末の "It was epic" を省略しているのも良くない。
仮にレースドライビングの楽しさをほとんど初めて知ったエドワードの、浮ついた調子を表現するための敢えての悪文だったとしても、しかし原文と同じように短文をテンポ良く繰り出す方が読みやすく、忠実度も高いはずです。
試訳では短文の区切りを原文に合わせつつ “fast”, “hard”, “squealing” などの形容を敢えて「すげえ」に寄せ、テンションとテンポ感の意訳を試みています。
2. ゴーストバトル
前編: エドワードはヴィヴからエスミーのゴーストと走ることを勧められる。
後編: エドワードはエイダからアドバイスをもらう。
もっと激しく曲がると思う [表現]
原文
Ada: Did you notice the way the Ghost you were racing would lift off the throttle before corners?
Edward: Eh... Not really...
Ada: It's interesting... I don't think her car is fast enough to make that necessary.
Ada: If she kept accelerating she would carry more speed and turn harder--
Edward: You all read way too much into things. How are you supposed to have any fun, if you're always studying everything?
Ada: But I enjoy it! Studying how other people drive is fun!
現行訳
エイダ: レースしていたゴーストがコーナーの前でスロットルを絞っていたの、気づいた?
エドワード: え...いや、あまり...
エイダ: なるほど...彼女の車がそれを必要とするほど速くないと思うけど。
エイダ: 加速し続ければ、もっと速くなって、もっと激しく曲がると思う
エドワード: ほんっと、研究熱心なんだな。何でも勉強して、いつ楽しんでんの?
エイダ: それが楽しいの!他の人の運転を観察することが楽しいの!
試訳
エイダ: ねえ、相手のゴーストがコーナーの前でアクセルを緩めてるの、気付いてた?
エドワード: えっ...そ、そうだったかな...
エイダ: 彼女の車には必要ない操作だと思うけど、 面白いよね...
エイダ: アクセルを踏み続けていれば、もっとスピードを保ったまま、よりハードなコーナリングが――
エドワード: お前は深く考えすぎだよ。いつも勉強ばかりで、どうやって楽しむってんだ?
エイダ: じゅうぶん楽しんでるよ! 他の人がどう運転しているかを見て学ぶ、それが楽しいの!
"turn harder--" と、台詞の末尾をハイフン2個(日本語ではダッシュ)で遮られている表現が訳されていません、というか句点まで無い。約物の抜け漏れというだけでなく、語尾も台詞の途中や接続詞になっておらず、遮られていることを表現していないのも問題です。
「遮られた」表現を敢えて抜いたなら句点を付けるべきだし、遮られたつもりならば台詞で鮮明に表すべきだということです。
余談ですが、自動車(レース)用語としての「スロットル」は、試訳で「アクセル」に原則統一しています。
アクセルは控えめにね [誤訳] [重要]
原文
Ada: Anyway, my point was, if you're going to race Esmee, just keep the accelerator down.
Edward: Now, that I can do.
現行訳
エイダ: とりあえずエスミーとレースするならポイントは、アクセルは控え目にね。
エドワード: やってみるよ。
試訳
エイダ: とにかく、エスミーとレースするならアクセルを踏み続けよう、ってこと。
エドワード: おう。それはできると思うぜ。
意味が逆です。ゲーム体験に影響する重要な誤訳。
本作全体でみると “Lift off”, “Lifting off”, “Throttle up/down” などアクセルワークに絡む表現は複数使われていて、「ペダルから足を上げる・下ろす」「スロットルを開ける・閉める」「アクセルを上げる・下ろす」などの表現が加速・減速どちらにあたるのか少しややこしいのは確かです。
ただし、今回は文脈が明らかです。エイダが言っている "my point was" とは、エスミーの走りを「もっとアクセルを踏めばいいのに、必要以上に減速してしまっている」と分析した結果のことです。したがって ”keep the accelerator down” は「恐れずにスピードをキープしろ」という意味とするのが自然でしょう。
3. レース
前編: エドワードはエスミーにマッチレースを挑む。
後編: イバはエドワードの目覚ましい成長をたたえる。
冗談だよ、ヴィヴ [誤訳] [重要]
原文
Ibba: You're picking things up real fast. I'm impressed. We might make a legendary racer of you yet.
Edward: Meh, I doubt it...
Edward: Like I told, Viv, I'm just messing around.
Ibba: Ha, we'll see... I think before long you'll be chasing the perfect lap just like the rest of us.
現行訳
イバ: 飲み込みほんと速いんだな。感動した。伝説のレーサーになるかも。
エドワード: んー、どうだろ...
エドワード: 冗談だよ、ヴィヴ、言ってみただけ。
イバ: なんだよ、まあいい...いずれ僕の仲間とパーフェクト・ラップで競うだろうし。
試訳
イバ: 本当に吸収が早くて驚いたよ。僕らの中から、伝説のレーサーが生まれるかもしれないな。
エドワード: さあ、どうだかね...
エドワード: さっきヴィヴに言った通りだよ。オレは好き勝手やってるだけさ。
イバ: はは、いずれ分かる...そのうち君も完璧なラップを追い求めるだろうね。僕らと同じように。
"Like I told"(言ったように)を「言ってみただけ」と誤訳したことで、空転した意味のない会話になっています。そもそもこの3レース目にはヴィヴは居ませんし、「どうだろ」としか言っていないエドワードが「言ってみただけ」と打消しをするのも不自然です。
最後のイバの台詞も、口語的に自然でもなければ直訳的な正確さがあるわけでもなく、曖昧な翻訳です。
Last updated