エイダ編 Stage3 スノーマウンテン・スプリント
1. タイムアタック
前編: エイダは雪山の道幅の狭さに驚く。
後編: エイダはタイムアタックの帰りにコーリー、エドワードと再会する。
バランスより、曲がるポイント
原文
Viv: It'll be more about finding the right balance than finding the perfect turn in point.
現行訳
ヴィヴ: バランスより、曲がるポイントを見つける方が大事。
試訳
ヴィヴ: 完璧なターンインのポイントよりも、適切なバランスを見つけるほうが大切ね。
逆!
文脈からダメ押しの補足をしておくと、ひとつ前の台詞でヴィヴは「シティ・スカイリンクよりもターンはゆるやか」と評しています。タフな急旋回の必要なシティコースでは適切なブレーキングとターンイン・ポイントを見つけることが重要だったわけですが、この雪山コースではコーナリング中の姿勢(バランス)がテーマになるわけで、これも重大な誤訳のひとつです。
コースに沿って走っていくしかないわね!
原文
Ada: Isn't there someone else here with a car like mine? I'd feel much more comfortable with someone to guide me.
Viv: Lucas drives a Coda Gecko RX...
Viv: But the only place they'd guide you is into a ditch!
Viv: No, I think you should try this track out for yourself first.
現行訳
エイダ: 私みたいな車を持っている人いないのかな?誰かが案内してくれたら、すっごく助かるんだけど。
ヴィヴ: ルーカスがコーダ・ゲッコウ RXを持ってたわ...
ヴィヴ: コースに沿って走っていくしかないわね!
ヴィヴ: だから、最初にこのコースを走ってみるべきだと思う。
試訳
エイダ: 私と同じような車を持ってる人はいないのかな?誰かがガイドしてくれると心強いんだけど。
ヴィヴ: ルーカスが、コーダのゲッコーRXで走ってるけどね…
ヴィヴ: でも、ここら辺の奴らの案内なんてのは、溝へのハマり方だけだわ。
ヴィヴ: だからガイドじゃなく、まずはあなた自身でこのコースを走るべきだと思う。
ストーリー的にさして重大ではないが、なんでこんなことに? と思う訳。一応ditchは動詞として「放棄」「ほったらかし」のスラングでもあるようですが、だとしてもこういう訳出にはなり得ないし、ここでは普通に溝の意味しかないと思います。
余談ですが、「Gecko」を「ゲッコウ」と書くのは独特ですね。日本語での音写はたいてい「ゲッコー」になります。
でも、どうやって走っているんだ?
原文
Ada: Hey, Corey! I saw your car was here earlier. I'm glad you decided to try racing other places too.
Corey: Oh, hey Ada! Yeah, thanks for encouraging me.
Corey: It's been quite a challenge for me so far... But how are you finding it?
Ada: Same... Roads here are so narrow, I'm not sure if any of the lines I'm taking make sense.
Ada: It's easy to drift too wide and drop a wheel in the snow too.
Corey: I've been dropping more than just a wheel into the snow.
現行訳
エイダ: ねえ、コーリー!ついさっき、あなたの車がここにあるのを見たの。他の場所でもレースしてるみたいでよかった。
コーリー: やぁエイダ!うん、ありがとう。
コーリー: これは僕にとってかなりの挑戦だった...でも、どうやって走っているんだ?
エイダ: 私も...この道路はとても狭いから、どこ走っていいのやら。
エイダ: すぐオーバードリフトして雪の中にタイヤを突っ込んじゃうからね。
コーリー: 僕の場合はタイヤの事よりもっと大変だよ。
試訳
エイダ: あ、コーリー!車を見たから居ると思ってた。他の場所でレースする決心がついたみたいね。
コーリー: エイダ!ああ、君の励ましのおかげだよ。
コーリー: ここは僕にとってはかなりのチャレンジになったが…君はどうだ?
エイダ: 私もだよ…道が狭くて、どのラインが有効なのか掴めないんだ。
エイダ: ドリフトが外に膨らんで、タイヤが雪に乗っちゃうこともあるし。
コーリー: 僕の場合、タイヤどころじゃなく乗り上げたりしてるな。
このコーリーとのくだり、全体的にうっすら変ではありますが最も不自然なのは「でも、どうやって走っているんだ?」でしょうか。「君は」とか「地元の連中は」とかを付けずにいきなり聞いてくるので、読んでいてびっくりします。
ほか細かいところだと、下のような指摘はあります。
"thanks for encouraging me." を「ありがとう」に丸めてしまっているので、1面で「遠征しようよ」とエイダが誘ったことへの言及が抜ける。
"I'm not sure if any of the lines I'm taking make sense." を「どこ走っていいやら」にするのは短縮としては有効ですが、ライン取りの主旨が丸々抜けるので、せめて「どこ通っていいやら」くらいにならんか。
"It's easy to drift too wide" に「オーバードリフト」を当てるのもよく分からない。個人的にレース用語でオーバードリフトという単語を全く聞いたことがない(作中で一回使用例があるが、ほぼオーバーステアと同義)うえ、そもそもエイダがそのタームを使っているわけではない。
"I've been dropping more than just a wheel into the snow." を「タイヤの事よりもっと大変だよ」にしてしまうと、雪にタイヤ以上の何か(たぶん車体とか)をdropしたらしいというニュアンスが抜けませんか。
2. スタイル
前編: エイダはエドワードに連れ出されて休憩がてらスタイルランをする。
後編: エイダはスタイルランからコース攻略のヒントを得る。
なんとなくとかじゃなくて
原文
Edward: Eh, thanks... I was just doing whatever though... Not trying to be fancy.
現行訳
エドワード: ありがとう、まぁ、できることは何でもやったからね...なんとなくとかじゃなくて。
試訳
エドワード: そ、そうか?ありがとな…何でもやってきたってだけで、かっこよくなろうと思ったわけじゃねえんだけどさ。
Fancyって「なんとなく」って意味だったの!? と驚愕したシンプルな誤訳。辞書を引くと、動詞には「気まぐれ」の意味はあるようだが、"to be fancy" のような形容詞にはそれはあたるまい……。
エドワードのチャラチャラして努力嫌いの性格から言っても、"just doing whatever though" を「できることは何でもやった」と真っ向ポジティブな成長への努力として言わせることには無理を感じます。"whatever" の「何でも」には「どうでもいい」のニュアンスが強く、"just" と合わせて「くだらないことだけやってきた」「できることしかやらなかった」ような解釈が自然だと思います。
(余談ですが、逆に「できることは何でもやった」というポジティブなニュアンスを含ませるならば "I was just trying to do everything though" くらいになるのではないかとチャットAIと相談したりしていた)
逆ハンドルテク
原文
Ada: I hadn't thought about countersteering like that before...
Ada: Using steering to make small corrections in the long turns is much easier than changing drift angle.
Ada: I think this might solve the problems I was having before.
現行訳
エイダ: あんな感じの逆ハンドルテクは考えたこともなかった...
エイダ: ドリフト角を変えるより、長いターンでステアリングを使って小さく直していく方が簡単なのだけど。
エイダ: でも、このテクを使えば今までできなかったことができるかも。
試訳
エイダ: 私はここに来るまで、カウンターステアのことを考えてこなかったな…
エイダ: 長いコーナーを回る時は、ドリフトの角度を変えるよりも、ステアリングで小さく修正するほうがずっと簡単なんだ。
エイダ: 悩んでたことも、これで解決するかも!
"drift too wide" を「オーバードリフト」という使用率の低い単語に訳す割には、"countersteering" いわゆるカウンターステアを「逆ハンドルテク」にしちゃうんだ……と驚いた場面。
本作のような頭文字Dモチーフのドリフトゲームでカウンターステアという言葉を知らない人はあまりいないと思いますが念のため説明しておくと、特にドリフト中、車体の姿勢をコントロールするためにコーナーの向きとは逆方向にステアリングを操作する逆ハンドルテクニックのことです。このゲームではドリフトスティックによっていとも簡単にドリフトするので、右スティックと左スティックを逆方向に入れればそれがカウンターステアになります。
このくだりは要するに、エイダがドリフト中のバランス・コントロールに開眼すると同時に、「ドリフトスティック・システムでドリフトを維持しつつ、ドリフト角の微調整にはステアリングを使え」というTipsなわけです。しかし現行訳では2文目が逆接で終わり、3文目も逆接で始まることで、何を言いたいのかよくわからなくない悪文になっています。普通に順接できる文章だと思うのですけど。
3. 決闘
前編: エイダはエドワードとのスタイルドリフトで得たヒントを、コーリーとのレースに活かす。
後編: エイダはコーリーとのレースを終え、ヴィヴから「あなたらしく走れたのでは」と褒められる。
追いつくために頑張る
原文
Viv: Keep that up and it won't be long before Ibba and I are struggling to keep up with you.
現行訳
ヴィヴ: 頑張って。イバとわたしはあなたに追いつくために頑張るし、そうかからないだろうから。
試訳
ヴィヴ: この調子なら、あなたはどんどん先に行ける。イバと私があなたに追いつくために苦労する日も遠くないわ。
分からなくないですか? 「そうかからないだろうから」、一体何が?
あと、この時点では(少なくともエイダの認識では)イバとヴィヴのドライビングはエイダより格上ですし、キャラクター間の関係値の表現として不適切です。
試訳では、「頑張る」と「追いつく」の間に「先に行ける」を補っています。
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