イバ編 Stage1 レイクサイド・ループ

1. タイムアタック

  • 前編: イバは新しいハイパワーの車に浮かれてタイムを出しに行く。

  • 後編: イバはマシンのクセの強さに落胆する(レース2の前編と同じ)。

新しい乗り方

原文

Ibba: Have you seen my new ride? Finally, a car with serious power...

現行訳

イバ: 僕の新しい乗り方見た?かなりのパワーを秘めた車で...

試訳

イバ: 僕の新しい足、見た?ついに本当のパワーを調達できた…

個別ストーリーの開始一発目から「乗り方」と言われても困ると思います。この場合はプロローグで仕入れた新車について言っているので、試訳では車の他のラフな言い方として「足」としました。

するより話すことの方がよく学べる

原文

Ibba: You better watch out, Viv, I'll be coming for you before long.

Viv: I would love to see you try...

Viv: You know, having that much power can do surprising things to the handling characteristics.

Viv: I can give you some tips before you hit the track if you want?

Ibba: Thanks, but I really just want to get out there.

Ibba: I've been working at this for a long time, and finally, it's all about to pay off... I can feel it!

Ibba: Besides, I've always learned better by doing than by talking.

現行訳

イバ: 気をつけてよヴィヴ、すぐに追いつくから。

ヴィヴ: そうなるといいね...

ヴィヴ: ほら、ハイパワーは、操作性がすごいことになるから。

ヴィヴ: コースに行く前に、必要ならいくつかのヒントをあげられるけど?

イバ: ありがと、でも本当にそこへ走りたいんだ。

イバ: 僕はずっと頑張ってきた、そしてやっと、すべてが報われようとしている...そんな気がするんだ!

イバ: それに、するより話すことの方がよく学べるし。

試訳

イバ: 見てろよヴィヴ、こいつですぐに君の速さに追いついてやる。

ヴィヴ: それは楽しみね…

ヴィヴ: ただ、分かってるだろうけど、それだけのパワーがあるとハンドリング特性は驚くほど変わるよ。

ヴィヴ: もしよかったら、コースを攻める前にちょっとコツを教えようか?

イバ: ありがとう。でも今はマジで、ただ走りたいんだ。

イバ: 今までずっとドライビングを頑張ってきた。そのすべてがようやく報われるような…そんな気がするんだよ!

イバ: それに僕はいつも、話すよりもやってみて学んできたからな。

先のセクションから直接の続き。「するより話すことの方がよく学べる」は明らかに誤訳で、意味が反転しています。これはアドバイスを聞かずにコースに出るイバの話なので。

また、"want to get out there." を「そこへ走りたい」としたり、不自然な言葉選びが全体をうっすらと読みにくくしているように思います。

2. ゴーストバトル

  • 前編: イバはガンナーのゴーストで練習を始める。

  • 後編: イバはガンナー本人にレースを挑む(3レース目の前編と同じ)。

アクセルちゃんと踏んでる?

原文

Viv: Have you tried getting off the accelerator? It'll free up power and shift the weight off the rear wheels.

Viv: Should make it easier to slide the back end out, and once you have the angle you want, then you can slam back on the power.

Ibba: I get it! Yeah, I could feel that happening, but couldn't explain it before... When I'm on the throttle, there's no power for the gyro.

現行訳

ヴィヴ: アクセルちゃんと踏んでる?パワーを解放して、後輪から重量をシフトするのよ。

ヴィヴ: バックエンドを簡単にスライドできるようにして、いい角度になったら、パワーをすぐに戻せる。

イバ: わかった!うん、それが起こっていると感じたけど、前に説明できなかった...スロットルにあると、ジャイロパワーがないんだよね。

試訳

ヴィヴ: アクセルから足を離してみた?加速を止めると後輪の荷重が抜けるのよ。

ヴィヴ: 軽くなった車体の後ろ側を外にスライドして、車の角度をコーナーに合わせれば、改めてアクセルを踏んづけられるでしょ。

イバ: なるほど!ああ、そういう動きは感じてたけど、言葉にできなかった…僕がアクセルを踏んだままだと、ジャイロにパワーが行かないんだな。

ステージ1-1から意味の反転するタイプの誤訳が頻出してきました。加速に関する用語は、スロットル/アクセルのアップ/ダウン、オン/オフ、リフトオフなどややこしい点もありますが、さすがに "getting off the accelerator" に誤解の余地はないでしょう。

自動車や自動車ゲームの基本的なメカニズムをもう少し補足しておくと、車が加速すると車体は後ろにつんのめる格好となるため、後輪に荷重が掛かります。逆に減速時には前輪に荷重が集中します。現実のドリフトもブレーキングなどで後輪の荷重を抜き、車体の後ろ側を外に流し始めることでスタートするわけです。

また、本作でイバの調達したHPE ドラゴンは特にアクセルオンの際の直進性が非常に高いという設定で、ドリフトスティック(※文中の「ジャイロ」、ドリフトジャイロと同義)での方向転換に非常に時間がかかる味付けをされています。

要するに、一旦アクセルを抜くことで直進安定性を下げれば、ドリフト状態に容易に移行できる……ヴィヴの台詞はゲーム的なチュートリアルとしても機能するもので、この重要なポイントでの誤訳は厳しいものがあります。

3. レース

  • 前編: イバはガンナー本人にレースを挑む。

  • 後編: イバはガンナーから思い出話を聞く。

準備できたら、その言葉を言ってね

原文

Gunner: Hey, Ibba, it's been a while... I'm liking the new wheels. How're you finding them?

Ibba: It was a handful at first, but I'm getting the hang of it.

Gunner: Haha, you've bitten off more than you can chew as always.

Ibba: I bet I can still take you, old man.

Gunner: Oh, really? Whenever you think you're ready, just say the word...

現行訳

ガンナー: ねえ、イバ、しばらくだね...新しいホイール、いいね。どうやって見つけたの?

イバ: レアものだけど、操作もだんだん分かってきたんだ。

ガンナー: はは、いつもながら能力以上に手を出すんだな。

イバ: まだついていけるよ、おじいちゃん。

ガンナー: へえ?準備できたら、その言葉を言ってね...

試訳

ガンナー: よう、イバ。久しぶり…その新しい車、いいんじゃないか。乗り心地はどうだ?

イバ: 最初は手を焼いてたけどね。だんだんコツが掴めてきたよ。

ガンナー: はは、大それたことをするのは相変わらずだな。

イバ: 今の僕でも、あんたには勝てるよ。ご老体。

ガンナー: へえ、そうかい?こっちはいつでもいいから、準備できたら教えてくれよ…

ストーリーがまるきり読めないわけではないですが、イディオムやスラングの直訳が集中している箇所なのでピックアップします。

  • "How're you finding them?" ここの "find" は「思う」。"How are you finding ~"は「~はどう?」になるので、車の見つけ方を訊いたわけではない

  • "It was a handful at first" ここの "handful" は「手に負えない」。数が少ないという意味ではない

  • "just say the word" 「いつでも言って」「何でも言って」などの意味。「もう一度言ってみろ」みたいな含意は(多分)ない

なんとか運転出来てるって感じ

原文

Gunner: Well done... That was an impressive showing for a car you've barely driven.

現行訳

ガンナー: 悪くないね、なんとか運転出来てるって感じだったよ。

試訳

ガンナー: よくやってる…ほとんど経験のない車にしては、驚異的な走りだったよ。

たぶんbarely(ほとんどない、かろうじてある)を強調して「なんとか運転出来てる」に持ってきていると思うのですが、

  • "impressive showing" 印象的なパフォーマンス

  • "for a car" その車

  • "you've barely driven" ほとんど運転したことがない

    • you have + 過去分詞のdriven なので「運転したことがある」、そこに副詞 barely を付けて「ほとんど運転したことがない」。イバの全体的な経験というよりは、"a car" 不定冠詞ではあるがHPE ドラゴンの運転経験を指すはず

になるので、ここはかなりニュアンスがズレています。"impressive showing" の訳出も抜けているので、ガンナーの褒める勢いも原文よりトーンダウンしている印象ですね。

違反はなしでね

原文

Ibba: It's a good start, but I've a lot to do if I'm going to stand a chance in the Summer Grand Prix.

Ibba: The tracks and the competition are only going to get tougher from here on out...

Ibba: No offense.

Gunner: Hah, none taken.

現行訳

イバ: 良いスタートだけど、サマーグランプリでチャンスを得るには、やることがたくさんだ。

イバ: コースと大会は、これからもっと厳しくなるだろうし...

イバ: 違反はなしでね。

ガンナー: ハハ、そりゃそうさ。

試訳

イバ: 良いスタートだけど、サマーグランプリでチャンスを掴むには、やることが多いな。

イバ: これからは今よりも、もっとコースも相手も厳しくなる一方だろうし…

イバ: あっ、ここやガンナーに悪気はないんだ。

ガンナー: はは、分かってるよ。

「今後の対戦相手は強くなるだろうが、流石にズルはしてこないだろう」という感じの謎の微笑ましいやり取りになっていますが、しかし "No offence" は「悪気はない」のイディオムです。

前後の文脈からも、暗に「1面の敵はザコ」と言ってしまったイバがそれに気付いてフォローをしていると解釈すべきやり取りだと思います。

君の可能性を引き出すべきじゃないってことじゃなくて

原文

Gunner: When I was younger, I wanted to be the fastest racer of all time, but eventually I realised I wasn't cut out for it.

Ibba: Don't you wonder what could have happened if you'd kept pushing?

Gunner: Nah, I realised I was just trying to prove something to other people... Now I drive for myself.

Gunner: Don't get me wrong, I'm not saying you shouldn't try to reach your potential, just make sure you're doing it for the right reasons.

現行訳

ガンナー: 僕が若かったとき、史上最速のレーサーになりたかったけど、それには向かないって気付いたんだ。

イバ: 続けてたらどうなってたかって考えたことないの?

ガンナー: いや、他の人に何かを証明しようとしているだけだって気づいた...だから、今は自分のために運転しているんだ。

ガンナー: 誤解しないでほしいけど、君の可能性を引き出すべきじゃないってことじゃなくて、それが正しい理由でやっているかを感じてほしいんだ。

試訳

ガンナー: 若い頃は史上最速のレーサーを目指してたけどね。結局、僕には向いてないって気付いた。

イバ: 挑戦し続けてたらどうなってたか、考えたことはない?

ガンナー: ああ、ないね。もう一つ気付いたのは、あの頃の僕はただ他人に何かを証明しようと走ってたってことだ…今は僕自身のためにドライブしてる。

ガンナー: 誤解しないでくれ。君の可能性を輝かせる挑戦を否定しているわけじゃない。ただそれを、正しい理由でやっているかは確かめてほしいのさ。

ごく軽度な言い回しレベルの調整ですが、「君の可能性を引き出すべきじゃないってことじゃなくて」は "shoudn't" の訳にしても読みづらいと感じました。

Last updated