初音の親衛隊

特殊な家柄の、そのまた特殊な立場にある神宮寺初音。そのせいか彼女には、自分の身体をネタにしたえげつない発言など、ある種の早熟さのようなものが見え隠れする。特に初回カードエピソードで描かれる親衛隊のシステムは象徴的だ。

親衛隊のシステム

初音「向こうだってアタシの体が目当てなんだから、こっちも打算的にね。」 初音「この体と縛られまくった地位にどんだけ魅力があるかわからんけどさ。」 初音「楽しめる間は楽しもうってね。あんたもよかったらどうだい?」 初音「親衛隊の試験はアタシに力で勝つこと。勝ったらお友達以上恋人未満。」 初音「2回勝ったら好きにしていい、ってのがご褒美。この方がアタシも本気でるし。」 初音「やだなぁ、ヒかないでよ。これでも、まだ誰も抜かしたことないんだぜ?」

(N: 神宮寺 初音『あの神宮寺家のあの初音様』)

親衛隊とは、JGJインダストリーの末妹の地位と可憐なルックスをエサに恋人候補を集める、初音の「火遊び」のようなものだと言える。上記の通り、彼女に1回勝てば親衛隊のメンバーとして認められ、2回勝てば好きにしていいと説明されている。

「力で勝つ」という試験内容はそこそこ曖昧で、しかも1戦目と2戦目の間にどういう差があるかも筆者の知る限り描写がない。もし対抗戦のような直接対決で決めているとすれば、たとえば初回は初音のみ、2回目はパーティに沙那が加わるために誰も勝てない……という仕掛けを想像してもいいかもしれない(この解釈には、沙那の職務・性格上の折り合いを付けられそうというメリットもある)。

このエピソードでは他にも、試験は複数回行われていること、参加者は毎回30人程度の男女(再挑戦含む)であること、競争率は高いものの合格者は稀に出ていることなどが読み取れる。

玉の輿競争の気配

メインストーリー第2話、風紀委員の紗妃は初音に対し「私設軍隊を持つな」と怒鳴りつけている。当の初音はこれを「ファンクラブのことを親衛隊とも言う」と抗弁しているが、少し後のカードエピソードを見てみると、ファンクラブというにはいささか緊張感の高い関係であることがうかがえる。

初音「親衛隊はアタシをどうにかしたい連中だっていったろ?」 初音「あいつらはアタシを倒して、アタシをものにしたいわけだ。つまり…」 初音「弱みっぽいのがあったら、すぐに飛びつくのさ。たとえば、こんな手紙とかな。」 初音「この学園には非常識が多いって言ったろ? ま、アタシもその一人だよ。」 初音「そういうのわかってるから、雑用とかどうでもいいことさせてるんだからさ。」

(SSR: 神宮寺 初音『届けたいこの想い』)

初回カードエピソードの設定が生きているなら、親衛隊は既に初音に1勝している連中である。2勝をもぎ取るためならばどんな手でも使ってくる、そういうギラギラした相手であると、少なくとも初音のほうでは想定しているのだろう。あるいは産業スパイめいた与太者が混じることも警戒せねばならないのかもしれない。

裏世界の親衛隊

沙那「私の知る初音様も、親衛隊選抜試験は一人として合格を出していません。」 沙那「自分を売りモノにして、いつも周りを驚かす…いたずら好きです。」 沙那「そうやって、刹那的に今を生きていらっしゃるお方なのです。」 沙那「背景を知らぬ者には、ただの快楽主義者に見えるでしょう。」

(風飛の丘に花は散り『月宮 沙那編 2話 差異』)

裏世界の沙那は上記の通り、表と裏の世界の共通点として「初音が親衛隊の合格者を出していない」と述べている。寮に引きこもる前の初音は表世界と同様に、親衛隊選抜を繰り返していたのだろう。

試験の方式が表世界と完全に同じとすれば、「2勝」した者は居ないが、「1勝」して親衛隊になった者は居た(かもしれない)と読むのが自然なように思う。どちらの世界でも1勝は過程であって、選抜に勝ち抜いたわけではないという解釈だ。かもしれないと付記したのは、裏世界の沙那は親衛隊員が居たとも居ないとも言っていないため。

余談だが、裏世界にも1勝した親衛隊員が居たとして、JGJが共生派に転向し初音が引きこもりになって以後の皆の行く末は気になるところだ。表世界ですらほとんど描写のない親衛隊の皆さんだが、裏世界にもさっさと足抜けして普通の学園生に戻る者、弱った初音を足がかりにJGJとの関係を深めようとする者、純粋に初音を慕う者など、いろいろな親衛隊が居たのかもしれない。

最終更新